※注意!
26話以降の妄想話です
ネタばれですのでお気を付けください。

ほぼ7の独白の78です





























あぁ 目が霞む


肩と太ももに血が集まるその熱が、意識を朧気にさせる

嗅ぎすぎた血と油の匂いが脳を毒していく


ガシャガシャと瓦礫を踏む足は様々な高低差を越え、まるでふわふわと地面でない地面を歩いているようだ


肌をうつ雨は冷たく、感覚を凍らされる



あぁ これが夢であれば、どんなに幸せだろう



確かめる勇気もないが、確かめたくもないが、ただ左側の義手の付け根の痛みが無情にも真の世であると伝えてくる





「……雨は駄目でげすなぁ、体が思うように動きません」



ポツリ、呟いてみた



あなたが言ったあの言葉を



そうですなぁヘイさん

あたしも体が動きませんで、困ったもんでげすよ



雨のせいじゃないくせに、雨のせいじゃないくせに、雨のせいだと、言いたくなる



「…………ここです」



凛とした声で目の前の少女は言った

もぅゆらゆらと揺れ続けることしかできなくなった振り子をまたゆらゆらと、濁り水を探しながら揺らしていた


「……きっと、ここです。ここに、ヘイハチ様が……」
「……ありがとうございますキララ殿、あなたはもう休んでくだせぇ」


笑って言ってみせた。
少女はあたしの顔を見てその整った顔を歪ませた。

「……無理をしないで下さいね」
「あぃ、承知しました」
「………っ」

少女は俯き一度振り子を握り締め、顔を上げて何かを言おうと唇を開いたが、またその言葉を閉じ込めた


「シチロージ様、オラたちも手伝いますだ」


男は呟いた
その言葉にゆっくりと頭を振った


「……大丈夫だ、あたしだけで十分さね」
「だどもっ……!!シチロージ様怪我がっ……!!」

「あたしが見つけたいんですよ」



笑って言うと、男は黙った。少女と同じように顔を歪ませた。


もう一度微笑むと、二人はこちらを幾度も見やりながら村へ向かった



「……さぁて、どこにいるんですかね」


体は動かない

動きづらいことこの上ない


雨のせいではないくせに、雨のせいではないくせに


愛する人の死を確認することを恐れるせいであるくせに


雨のせいだと思いたい、こんなにも足が重いのは、雨のせいであって、あなたの死を見ることを恐れているからではない



ヘイさん


ヘイさん




どこですか





どこにいるんですか



じらさないで教えて下さいよ



今までずっと心を隠してきたように、今度は姿も隠してしまうんですか?


出て来て下さいよ


出て来て笑って下さいよ


抱きしめさせて下さいよ






ヘイさん














生きてて下さいよ













ガシャ

ガシャ

瓦礫を少しずつ掘っていく

その手つきは

死人を探すような荒さや虚しさはなく、生人を探すような丁寧さに包まれていた



雨のせいですよ

こんなにも手が震えるのは



雨のせいですよ



こんなにも腕が軋むのは



恐れているわけじゃない

怖れているわけじゃない

畏れているわけじゃない

だってあなたは生きているんだ



この地面の下で

今もあたしが手を差し伸べるのを待っているんだ

米を待っているんだ

命を持っているんだ

死んでない

あなたは死んでない





またあたしに



笑って





くれ









































『シチさん』


あぁ、ほら生きていた


今あたしの目の前で、変わらぬ恵比寿顔で暗闇のなか座っているじゃないですか


目の前でにこりと笑うその男は、手袋をとって、そっと自分を求め泥だらけになった男の手をとった


右手と左手


色白く整った手についた泥をそっと指で擦る

鉄に染み込んだ泥をそっと指で擦る

慈しむように

労うように

指で擦る



………あぁヘイさん

やっぱり、そうなんですね



求めずに慈しみ

縋らずに労い



もぅ いいのだと

終わりにしていいのだと

その小さな指が全てを語った



ヘイさん

ヘイさん













ヘイさん



好きですよぅ



好きでげすよぅ







そっと指を取り払って

彼の頬に触れようとした瞬間に























目が覚めた







































「ヘイさん……」

瞼を開けてみたら、いつの間にか両手が握っていた



瓦礫から伸びた

彼の腕





見慣れたはずの茶色の手袋は

いつの間にやら赤くなっていた











少し瓦礫をどけてみれば





彼の体の上半身が現れた











丁寧に丁寧に

抱き上げる



腹部はどこへいったのだろう

下半身はどこへいったのだろう























「ヘイ……さ……」


死してなお笑う恵比寿顔。


あたしが愛した恵比寿顔。























「ヘイさんっ……ヘイさ………ヘイ……さ…………っ」



































「―――――――――――――っ!!!!!」


その日


あたしは久しぶりに声を上げて泣いた








何年ぶりだろう


何年ぶりだろう





雨は強さを増して雨音が耳を支配してもなお、あたしの鼓膜は自分の叫び声に埋もれた


























秋雨の冷たい雨のなか、冷たい体を抱いてるのに、あたしの喉は焼けそうに燃えた








青白い火のように








熱く








燃えたんです