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どこか気だるくて
やたらと熱気がつきまとう

春夏秋冬の二番目も終盤に近づいてきた


生き物が一斉に声を上げ、流れゆく水が一段と輝いて見え、春に生まれた命が燃えるように息づく

そんな季節が終わりに向かう



あれだけの熱気を自分に降り注ぎ続けた太陽が

ちょっと待て、と言いたくなるほど早々と沈み、未だに鳴き続ける虫の声がまた太陽を呼び戻したくなる気持ちを後押しして止まない



どこか去らないでくれと呼びたくなるあの青空と入道雲

いなくなるわけでもないのに去らないでくれと呼びたくなるあの太陽



夏の終わりとは、なんと寂しいものだろう









「………なんて、思うわけですよあたしは」

「なるほど…今日のシチさんはなんだか感慨深いものがありますねぇ」

「あらま。あたしはいつだって情緒的でげすよ?」

「これは失敬」



橙の髪と金色の髪を揺らして二人の侍は縁側で肩を並べて座っていた


これまた熱気にやられてか、どこか気だるい舌づかいで言葉を紡いでいた。



「でしょ?こう…何かやり残したような感じがするんですよ」

「なるほど」

「別にやり残したことなんて無いし、何かをやろうと計画していたわけでもないんですがね」

「ふむふむ」

「あのひぐらしの鳴く声を聞くと、どうにも心がせわしなくて」

「ほ―ぅ」

「それに夏を過ぎれば秋じゃないですか、そして冬。この夏を過ぎたらもうどんどん終わりに近づく気がして」

「はぁ」

「……………ヘイさん、あたしの話聞いてます?」

「ふぁい」



橙の髪を靡かせた侍は大好きな真っ白い米をその頬いっぱいに頬張らせて答えた。



「……も―っ!!ヘイさんはあたしより米が大事なんですかっ!?」

「………………」

「そこは悩まないで下さいっ!!!!」



橙の侍はひとしきり喉で笑ったあと、しっかりと米を咀嚼して、味わってからごくりと喉に流し込んでから、金の侍の頭をガツンと殴るような言葉をぶつけた


「シチさんは可愛いですねぇ」


「……………」



ガツンと頭を殴られたようにポカンとした金色の侍は紫の衣をずるりと肩から落とした

橙の侍は自分が言ったことの重さを知らずにまた米を頬張る



「可愛い………あたしが…?」

「はい、シチさんは可愛いですよ」


にっこりと恵比寿顔を見せてもう一度その言葉を言ってみせた

金色の侍は
あなたの方が可愛い
とか
あたしは男ですから可愛くなんてない
とか

もっと色々言いたいことをぐっと腹に留めてその言葉の拳を振りかざす理由を問う



「なぜ……ヘイさんはそう…思うんで…げすか?」



声とか口端とかをひきつらせながら金の侍は橙の侍に問う



「だって。夏が終わるのが寂しい、だなんて。なんか可愛いなって。まるで逢い引きの別れを惜しむような少女みたいで」

「……ちゃんと話聞いてたんじゃないですか」

「だからハイって返事したじゃないですか」

「………。ヘイさんは寂しくないんですか?」

「私ですか?私は……」



顎に手をあててうーんと考える様をじっと見つめる。



「お米の季節が来るんだなぁって、ワクワクしますね!!」

「………………」



またもや、ガツン。


やられた。
これじゃ本当にあたしは可愛い人じゃないですか。
これじゃ本当にあなたはかっこいい人じゃないですか。



「だって秋ですよ秋!!お米はとれるし、茸や果物だっておいしい季節です!!あと秋茄子や秋刀魚!!どれもこれも捨てがたいですねぇ」

「……ヘイさん、一つ意地悪な質問をしていいですか?」

「栗や葡萄も…………はい?何でしょう?」

「もしあたしが夏にしか会えないとしても、夏との別れを悲しいとは思いませんか?」

「……………」



あぁ、何を言ってるんだ自分は。
何を織り姫と彦星のような夢物語を言ってるんだ。
この人の中の何と自分を比べたがってるんだ。



そんな言葉を述べた代償か、みるみる頬に熱が集まるのがわかる。



………惨めだ。



「ん―。これからその夏にしか会えないシチさんに、お土産がいっぱいできると思えば、やっぱりワクワクしますね」

「…………。っははは!!」

「?」

「ヘイさんはこの世界が随分とお好きなようだ」



そりゃあ世界と自分、どっちが大事ですかなんて、そこまで馬鹿な比較はしない。

世界より、あなたが好きですよ、なんて

そんなの信用ならないじゃないですか。



それならば



「はい!!シチさんのいるこの世界が大好きですっ!!」



なんて言葉の方がもっともっと、嬉しいじゃないですか。















夏よ、さらば。
来たれ、秋。

どんな季節が去ろうとも

どんな季節が来ようとも






あなたがいれば


この世界ごと、惜しむだろうから。



あなたがいれば



この世界ごと、愛していくだろうから。